仙台高等裁判所 昭和30年(う)199号 判決
原判決が本件被告人星友太郎に対する公訴事実中同人が山野辺良助に供与し(公訴事実第一の(一)別紙一覧表(一)の5、6)、被告人山野辺良助に対する公訴事実中同人が星友太郎から供与を受けたという(公訴事実第二の(一)イ、ロ)、前者の金一万円の内九千円、後者の六千円については共謀供与の準備行為であるとして無罪と認め、その内右後者の六千円においては、被告人両名に対し、主文において無罪の言渡しをしたことは所論の通りである。よつて按ずるに被告人星友太郎の検察官に対する第一回供述調書、及び被告人山野辺良助の検察官に対する第一、二回供述調書を綜合して考察すれば、被告人星、同山野辺の両名はいずれも関内正一候補者の選挙運動者であつたところ、当時被告人星は病気で歩行困難の為昭和二十七年九月十五日頃被告人星方において被告人山野辺に対し原判示趣旨の下に金一万円を交付し各選挙人である小野敏らんに三千円を、園部鶴寿、蛭田喜典、田子茂男に各二千円をそれぞれ供与すべく依頼し残千円は選挙運動の報酬として被告人山野辺に供与したものであることが明かで、被告人山野辺は右の依頼を承諾し、その趣旨に基き右小野を除くその他の者にそれぞれ供与したが、小野に対しては遂に供与し得ずその分三千円はその後被告人星に返還したこと及び被告人星は同山野辺に対し同月十八日頃前同所に於て前同様の趣旨の下に金六千円を交付して各選挙人である山崎登に三千円、大平藤一、村上勇喜、大平留松に各千円を供与すべく依頼し被告人山野辺はこれを承諾し、右依頼の趣旨に基き右の者等に、それぞれ右金員を供与した事が明白である。然らば右被告人星、同山野辺間に授受された初の一万円の内九千円及び後の六千円は、被告人星が、同山野辺に対し、関内候補の為投票並投票取纏の選挙運動方を依頼しその報酬並投票買収資金等の費用として右各選挙人に供与せしめる目的で之を交付したもので、これらの金員が、所期の如く供与されないでしまつたときは、被告人両名間の右各金員の授受は正に交付罪を構成するものであるが、所期の如く供与された場合には交付罪は供与罪に吸収せられて独立の存在を失うことになるものと解すべきものである。故に被告人山野辺が、同星の依頼の通り供与を実行し得たところの初めの九千円の内小野敏らん以外の者に供与すべき計六千円及び後の六千円全額については被告人両名の間に交付罪、受交付罪の成立を論ずる余地がないものであるとともに、小野敏らんに対して供与すべかりし三千円については右交付罪、受交付罪の成立を肯定すべきものである。而して叙上の事実関係の下においては被告人星と同山野辺との前記九千円及び六千円の各金員授受がすべて共謀者間の準備行為であるが故に犯罪を構成すべきものではないとの見解は公職選挙法が交付罪を処罰する趣旨に鑑み、之に賛同し得ない。果して然らば原判決が無罪と判定した前記九千円及び六千円の金員授受の内、前者の小野敏らんに供与すべかりし三千円を除く、その余のものについて被告人両名を無罪と認めたのは正当であるが(被告人星は、これらの金額について、被告人山野辺と共謀して他の選挙人に供与したものであるが、被告人星に対しては、この点の起訴がないので有罪の判決をなし得ない。この点については後段でも説明の通りである。)被告人山野辺が選挙人小野に供与し得ずして被告人星に返還した金三千円については、被告人星、同山野辺間に交付、受交付罪の成立を否定し無罪と認めたのは法令の解釈を誤つた違法がある。然り而して右誤りは原判決中主文で被告人星友太郎、同山野辺良助に対し無罪の言渡をした部分には影響を及ぼすことがないが、原判決中その余の部分については影響を及ぼすことが明かであるから原判決中右後者の部分は破棄を免れない。論旨は右限度において一部理由があるが、その余は理由がない。
同上第二点について
しかし被告人星、同山野辺間の叙上金一万円の内六千円(蛭田喜典外二名に供与の分)及び六千円(山崎登外三名に供与の分)は被告人両名が共謀して蛭田喜典外六名に供与したものであることは前段説明の通りであるが起訴状には被告人星が右七名に対する供与に関与したことは何等記載されていない。即ちこの点は当初から審判の請求がないものである。而して被告人星が、山野辺に対し昭和二十七年九月十五日頃には蛭田喜典外二名に供与すべき六千円(一万円の内六千円)を、同月十八日頃には山崎登外三名に供与すべき六千円を交付したとの事実と、被告人山野辺がこれらの金員を前記蛭田喜典等七名に供与したことに被告人星が共謀者として関与したとの事実とは公訴事実としての同一性を認め得ないことはもちろんであるから、その間訴因の追加変更の余地がないので、原判決には所論の如き審理不尽の違法は存しない、論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)